悼・女優魂
テレビ(ときどき映画たまにお芝居)斜め読み By 高橋晶
CXドキュメント登龍門『描けなかった2枚の絵〜原爆が投下された日の記憶』。
広島の高校の美術部の二人の女生徒が、原爆体験者の願いに応えて、文化祭の出品作に原爆の絵を描く話。
穏やかなナレーションを、最初はアナウンサーかと思って聞き流していたけれど、終盤になって気がついた。
深浦加奈子さんだ。
抑揚を極力控えた語りの上に、彼女自身の想いが微かに、けれど確かに乗っている。いつもの声だ。
しかも、いつも以上に深い慈愛に満ちて、登場人物たちと、事物すべてを包み込んでいる。
テーマの重さを重さとして、咀嚼し、理解し、発信者の意図をふんわりと確実に、観る者に届ける力。
エンディングロールで確認した。ということは、これが彼女の本当の遺作だったのかな。
深浦加奈子という女優に惹かれ始めたのは、いつからだったか。
気がつくと、どんなドラマでも映画でも彼女を真っ先にチェックするようになっていた。
この人は本当に、女優という仕事が好きなんだ。
見るたびに感服した。脇役一筋だったけど。
2年ほど前、レギュラーで出ていた「科捜研の女」で、彼女がメインの回があって、わが子をかばう母親の演じ方が、いつになくオーバー気味なのが気になった。
それはそれで感動ものだったけど、たぶんその頃、闘病生活が始まっていたのかもしれない。
おそらくほとんどの人が、顔と名前が一致しない程度の存在なんだと思う。けど、見れば必ずわかるはず。
そういう女優でした。大好きでした。
「仕事が恋人」なんて一部の言われ方はない。
いや、彼女にとってはそれが本望だったかもしれない。
8月25日没。享年48歳。合掌。