u子の山陰便り 八重垣神社
2006年7月号

 先のことを予想するのは神様でも難しいのではないか、と昨今の出来事を見ていて思うのは私だけではないと思う。何を言い出すのだろうと思う読者の方々だろうがワールドカップのサッカーの勝敗にしても梅雨前線の動きと大雨にしても言えている。ところが人は誰でも、先のことをいち早く知りたくて、しかもその結果が自分にとって一番好ましいものであることを望むのだと思う。
 仕事なら望む方向に、試験なら合格できる方法など、世の中にはノウハウだのマニュアルだの存在するが、恋の行く末や成就などには、成功の定石がなく、過去体験も役立たない。しかし恋愛が実るかどうかほど知りたい、そして達成できることを願うものはない。こんな思いを何と100円なりで知る方法が松江市にある八重垣神社にあった。

 八重垣神社はJR松江駅からバスで20分。
スサノオの命とその奥様のクシナダ姫を祭った神社。出雲大社からみれば極めて小規模な神社だ。この社殿の奥に鏡池という小さい池がある。社務所に「占い紙」が用意されていて百円なりをお納めして、この紙を頂き、池に浮かべる。その上にコイン(100円や10円玉)を置いてひたすらに恋の成就を願っていると、やがて占い紙は池に沈む。この時間が15分以内なら恋は成就するとスサノオの尊が言われたそうだ。当然池の端に占いたい人がしゃがみ、占い紙の沈み具合をドキドキしながら見ている。この人の位置から遠い位置で沈めば遠い人と縁があり、近い位置なら周囲の人との縁だとのこと。

 訪ねた日は雨が降りそうな日だったが、若いお嬢さんが二人、浮かべた占い紙を心配そうに見つめていた。背後から黙って私も眺めていたが、一人の女性の占い紙はさっと沈み、もう一人の人の紙はかなりの時間がかかって沈んだ。
思わず「よかったわねえ」と口から出てしまったが、笑顔になったお嬢さんが「ええ」とうなづいた表情はかわいらしかった。
 u子さん、紙なら水を含めば沈むじゃないか、と読者には言われそうなのだが、一人の人は早く沈み、もうおひとかたは時間がかかるのは、スリリングだ。そりゃ、紙の材質の違いだろうといわれるかもしれないが、その材質をどんなタイミングなのか、わからないが、受け取ってしまうその「縁」なのかもしれない。

 出雲大社にはこんなロマンチックな仕掛けはないのに大盛況。にもかかわらずこの八重垣神社はひっそりとした静かな小規模な神社。でもひとときの祈りがあり、将来を託したい願いがこめられている。
 神様もメジャーになるには経営方針やPRによるのか、どんな機縁で有名になり参拝客が増えるのだろうか、などと不謹慎ながら思う。私はこの神社、初めてきたわ、もっと早く連れてきてくださればよかったのに、と主人に言ったが、聞こえないのか、笑顔だけで返事がない。
 そういえば占い紙には、「あなたのよき方向は東」とか「良縁あり」とかの文言が水の上であぶりだしのように浮き出ていた。

 冒頭で先のことはわからないと書いたが全くその通りで呑気に占い紙の沈み具合など眺めていて数日後、日本海にミサイルが打ち込まれた。日本の外交の行く末を占う方法などないものだろうか。
 紙を鏡池に浮かべたら、10時間ほどかけて沈み、北朝鮮のミサイルは日本列島に打ち込まれる縁がないという結果が出て欲しいものである。