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こうみそだて その27 別れ
こうみそだて その27 別れ
▲こうみそだて


 

■はじめに   By くまこ
 子育てをめぐる書物は世の中にうんざりするほど出ているわけで、有名な先生から一介の主婦まで様々な視点で書かれており、「もう十分」と思っている人も多いだろう。しかし、子を産み育てる当人にとっては、日々これ発見なわけで、この「発見」を人に問うて見たいという気持ちは誰にも止められない。とゆーわけで、私も一人の子を産み育てつつあるなかの「発見」を、この「いまどこ」紙上(※)を利用して同世代の皆さんに問うてみたいと思っています。

※「いまどこ」 2002年11月創刊。現在休刊中。基本的に30〜40代の人たちに、毎月お題を振って自由に語ってもらうフリーペーパー。「こうみそだて」は「いまどこ」に毎月連載していたものです。

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一年、二年とナミの担任だった先生がこの春異動になってしまった。
クラスは二クラスしかないのだが、もう一クラスの担任は停年で学校を去ることが決まっていたので、ふたりともいなくなってしまうわけである。
PTA役員をしていたので、じつは事前に先生が異動になることを知っていたのだが、子どもには言わなかった。
ベテランの女の先生らしくよく気がつき、ナミのアレルギーについて親身になって相談に乗ってくれたり、旅行先のめずらしい国の話をしてくれたり、「アフリカでゾウやキリンを近くで見たのよ」と興奮して保護者会でも写真を見せてくれたこともあった。
私も子どもも大好きな先生だった。

娘は、「S先生いなくなっちゃうんだよー」と始業式の日に真っ先に報告。
残念そうだった。
しかし、三年生の新しいクラスで誰と一緒になったとか、担任は若い女の先生でよかったなど、早くも新しいスタートに関心がいっているようだった。
親としては、新しいクラスになじめるのか心配していたのでホッとしたのだが、やはりS先生がいないのは残念。
子どももっと残念がると思っていたのに、こんなもんなのかなーと、ちょっぴり薄情に思ったりもした。

新学期が始まって間もなく、「ナミたち、S先生に手紙書いたんだよ」という。
聞けば、離任式があり、そのときにみんなで先生に手紙を渡すのだという。
転勤した先生たちが古巣に戻って子どもたちとお別れするという行事なのだ。

ナミはさっそく、離任式の日をカレンダーに印を付けて、「S先生に会える!」と楽しみにしていた。
やはり、先生のことを懐かしく思っているようだ。

そして、離任式の日。
帰ってきた娘に「どうだった? 先生、元気だった?」と聞くと、ニヤッとしながら、「ナミ、泣いたよ…」と言う。
久しぶりに会った先生に、クラスで一番やんちゃで先生を困らせたTくんがみんなを代表して手紙を読んだらしい。
Tくんは読みながら途中で涙ぐんだそうである。
そのうち、一人、二人と泣き出して、ほとんどの子が泣いてしまったのだとか…。

「ナミたち、ビンゴって言われた〜」。
並んでいたナミと両脇にいたお友達三人がいっせいに泣いてしまったため、男の子たちに「泣きビンゴ」とからかわれたのだという。

それにしても、今の子はさらっとしているとか、思いやりがないなどといわれるが、娘の話を聞く限りそんなことはないのだと思った。
そして、意外にも泣くほど先生との絆ができていたということに、親以外の大人とこんなに深い関係が結べていたなんて、びっくりするとともにうれしくもあった。
本当は、S先生がいなくなってとても不安だったのに、いなくなってしまったのだから仕方ない、なんとか新しいクラスや先生に慣れようという気持ちは、意識することはないにしても、子どもたちの胸にはあったのだろう。
それが、じっさいにS先生に会って、今までのがまんが堰を切ってしまったのではないだろうか。
いやはや、なんとも健気、けっこう大人になったんだなあ。
子どもをあなどるなかれ、という感じであった。

S先生も涙ぐんでいたと聞き、なんだか私まで胸が熱くなってしまった。
子どもたちに泣かれるなんて、先生冥利に尽きるだろう。
ナオには、別れるとき泣ける人をたくさん作ってもらいたいと、親として何を一番に望むかといわれればそう答えたいと思った母であった。

(長い間読んでくださってありがとうございました。またお会いできる日まで…)
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